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 最近、「平屋」がブームだ。国土交通省の「建築着工統計調査」によると、全体の住宅着工戸数が減少する中で平屋の着工数は増加しており、2016年の3万8670棟から2023年には5万8154棟というデータも。そんななか、千葉県千葉市中央区に全50邸の“平屋だけ”の分譲地がある。今回は、この平屋分譲地の物件を購入した夫妻と、手掛けた企業、株式会社拓匠開発に「なぜ平屋なのか」話を伺った。
長男の独立を機に、もっと自然豊かな家で暮らしたいという気持ちに今年初め、千葉県浦安市の住み慣れた一戸建てから千葉市中央区の平屋に住み替えたNさん夫妻。現在は、夫(Tさん)、妻(Aさん)、夫の母、娘の4人暮らし。近いうちに娘は一人暮らしを始めることになっており、いずれは3人暮らしになる予定だ。

Nさん夫妻が選んだのは、「平屋だけの分譲地」にある建売物件(写真撮影/相馬ミナ)
なぜ平屋がいいと思ったのだろう。
「直接的なきっかけは、姉夫婦が、子どもが独立するタイミングで自然豊かな環境の平屋住宅に住み替えたこと。訪問してみたら、自然いっぱいで、日当たりが良くて、階段の上り下りもなくて楽。これは気持ちいい。“次に住むなら平屋だな”と思っていました」(夫のTさん)

黒の外観がシックな雰囲気の平屋住宅(写真撮影/相馬ミナ)
予算や引越しタイミングの兼ね合いで、分譲住宅を検討することにした。いろんな物件を見て回ったが、この家を選んだ決め手は立地環境と「薪ストーブ」だったという。
「暖炉のある家って憧れでした。森の中の別荘のような雰囲気を味わえます」(夫のTさん)

ウッドデッキが広い家や、リビング内に段差のある家など、複数プランがあるなかで、「薪ストーブ付きプラン」を選んだ。薪ストーブは土間にあり、リビングだけでなく、この土間も自然に人が集まる団らんの場所に(写真撮影/相馬ミナ)
実際に住んでみると、やはりフラットな動線ゆえの移動の楽さに感動した。以前住んでいた一戸建ては2階建て+ロフトで、階段の上り下りが大変だったからだ。延床面積だけでいえば、前の住まいよりコンパクトにはなったが、天井が高く、風通しもよい。
「とにかく“快適な住まいだ”と肌で感じるんです。前の住まいは住宅密集地でもあったので、窓を開けても建物ばかりで、空を感じるなんてことはなかった。この家に住みかえてからは空が広く感じるんです」(妻のAさん)

リビングからの緑の借景を望む。「この開放感を味わいたくて、窓のブラインドは、昼間はほとんど下ろしません」(写真撮影/相馬ミナ)

ウッドデッキの中庭でビールをいただくのも夜の楽しみ(写真撮影/相馬ミナ)

※薪ストーブ付きプランの一例(画像提供/拓匠開発)
土地面積:215.56平米(65.2坪)
建物面積:86.12平米(26.05坪)
快適な平屋住宅ライフだが、準備には時間がかかった。。夫妻が以前住んでいた家より、延床面積が狭くなるため、断捨離はマストだったからだ。25年以上、引越しをしないまま住んでいた浦安の住居はモノが増える一方だった。そこで、当時、前の職場を退職したばかりの夫のTさんが主に片づけを担当した。
「9割のモノを捨てたと言っても過言ではないです。最終的には家族に“必要なものは先に言って。さもないと全部捨てるよ”と言っていましたね。母の部屋は特に亡くなった父のモノも多く、姉たちにも来てもらって片づけました」(Tさん)
とはいえ、この大がかりな断捨離を経験し、「自分が亡くなった後のモノが少なくなったのは助かる。ちょっと前倒しの“終活”をしたとも思えます」とポジティブに捉えていらっしゃるそう。

庭→土間→リビング→中庭がワンフロアでつながっているため、室内にいながら、屋外にいるような感覚を味わえる。隣の住戸が近いほうの壁は窓を小さくし、視線が交わらないようプライバシー面を考慮してある(写真撮影/相馬ミナ)

キッチンからも緑の借景が(写真撮影/相馬ミナ)
難点は通勤時間が長くなったこと。一方で週末の余暇は充実平屋は広い敷地が必要なため、立地は当然より郊外になる。Nさん夫妻も、妻のAさんは早番の時に始発電車で間に合わないため車通勤になった。「バスの本数が少ないのと、時間が読めないのが想定外でした」(Aさん)
一方、アウトドア好きの夫妻としては、新しい家からはキャンプ場が近くなり、40分程度で行けるようになったことは大きな喜び。渋滞に巻き込まれずに行けるようになり、帰宅後の疲労度も違うそう。

(画像提供/本人)

天井が高いために生まれた、玄関とリビングの間の壁の上のスペースには、アウドトアで使うランプを飾っている(写真撮影/相馬ミナ)
「前の浦安の家は“子育ての家”でした。上の息子が1歳の時に家を建てて、呼び寄せた夫の両親には共働きをサポートしてもらいました。そうした子育て期が終わり、この家は私たちにとって、”セミリタイア”の家なんです。仕事だけでなく余暇も大切にする住まいとして、自然豊かな平屋暮らしが、良い選択だったと思います」(妻Aさん)
とはいえ、ワンフロアになったため階段の上り下りがなくなって楽になった反面、運動不足も実感しているそう。
「前の住まいは2階がリビングで否応なく、毎日階段の上り下りで足腰を鍛えていたんだなと思いました。もちろん、もっと歳をとれば階段は大変になるかもしれないけれど、思いのほか運動不足になるな、と思いました。だから、最近はこの周辺を散歩するのが日課です。このあたりは平屋住宅ばかりだから空も広く、植栽も豊かで散策にぴったりです」(Aさん)

以前の家からずっと飼っているワンちゃんは3匹。“クララ”と“ハイジ”、“ペーター”にとっても、庭があり開放的な家は心地いいはず(写真撮影/相馬ミナ)

同居されているお母さまと、まだ2歳のペーター(写真撮影/相馬ミナ)
若いご家族からシニアカップルまで。平屋住宅を選ぶ層は意外と幅広い今回、Nさんご夫妻が選んだ物件は、平屋だけの分譲地「モリニアル川戸の森」――“森にある街”がコンセプトの分譲地だ。各住居の庭はもちろん、樹木や草花をふんだんに配した開発がされており、平屋だけの50邸は首都圏では珍しいだろう。
そこで、この分譲地を手掛けた拓匠開発の広報・舘林真菜(たてばやし・まな)さんにお話を伺った。
平屋を選ぶ方はどんな人だろうか? 前出のNさん夫妻のように、子育て期の終わった方が多いのだろうか?
「もちろん、子ども独立後のダウンサイズやフラットな生活を希望される50代~60代のご夫婦は多いです。しかし、実は若いファミリー層も多いんですよ。『モリニアル川戸の森』のご成約者さまの半分以上は子育て世帯や20~30代の若い世帯(2025年10月時点)です。“実家が2階建てで階段の上り下りが大変だったからワンフロアが良かった”“子どもの足音を気にせず、のびのび子育てしたい”“ペットを思う存分遊ばせたい“といったニーズが高いんです。トレンドになっているとも言えると思います」(舘林さん)
平屋の快適性は、ゆったりとした敷地が大前提。“自然豊かな環境で、ミニマムに暮らす”ことが、憧れのスタイルになっているのかもしれない。その背景には、リモートワークが増え、より郊外で暮らすことへのハードルが下がっていることもあるだろう。
“50邸”というスケールメリットを生かした街づくり。緑地も残して未来につなげるそして、一定の規模以上の分譲地だからこそのメリットもある。例えば、このモリニアル川戸の森の場合、車両が行き来しない「森の小道」があったり、道路を曲線にデザインして街並みが単調にならない工夫が施されたりしている。
もし、1軒、1軒バラバラに家の設計を考えたなら、平屋住宅の隣に2階建て住宅が建てられてしまうかもしれない。それだけで日陰になってしまうのが平屋だ。デベロッパーの意思で全体をプランニングできる分譲地なら、隣家とのプライバシーに最大限配慮し、目線が合わないように窓の配置も可能。視界が遮られず、空が広く感じられる街並みが実現できる。

空が広く道路から5m以上セットバック(※)しており、ゆとりのある街区となっている(写真撮影/相馬ミナ)
※セットバック……建物の建築時に、前面道路と接する土地の境界線から、建物を一定距離後退させること
「もともと、この土地は“川戸市民の森”として、近隣の方々に親しまれた緑地でした。膨大な土地の管理と相続の問題から、当社がこの土地を譲り受けましたが、この環境も守りたかったんです。そこで、緑地全体をすべて住宅地とせず、約半分を、千葉市へ寄付することにしました」(舘林さん)
民間の開発でこれだけの緑地が保全されるのは異例だろう。
豊かな自然と調和した街づくりは、住民だけでなく地域住民にも恩恵をもたらしている好例だ。
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拓匠開発は、千葉市を中心に、一戸建ての設計・施工・販売までを手掛け、さらには街づくりの一環として店舗・飲食業まで進出している企業だが、どうして「平屋」に注力するようになったのだろうか?
 
きっかけは、拓匠開発の代表である工藤英之氏が、2012年ごろに海外視察に行ったこと。
「日本のハウスメーカーがメルボルンで現地の会社と共同で分譲事業を始めたということで現地に赴いたのですが、メルボルンの、平屋が広がる美しい街並みに感銘を受けたそうです。建物が低いゆえに大きく広がる空、そこからくる開放感。“こんな街を日本でつくれないだろうか”という思いがスタート地点でした」
平屋の優れた居住性は、広い敷地ありきだ。庭のない住宅密集地に立ってしまえば、日当たりも風通しも悪く、プライバシー面でも問題がある。つまり、「快適な平屋」は広い敷地にしか建てることが難しく、おのずと立地は郊外へ、郊外へとなる。
「東京23区内で平屋を建てることは、土地の値段が高騰している今本当に難しいと思います。しかし、千葉市などの首都圏郊外なら、都心へのアクセスも考慮しつつ、“平屋の建売住宅で5000万円以内(土地代込み)”が実現できます。広さと利便性と価格のバランスが良い平屋住宅を供給できるのでは、という考えもありました」
平屋住宅は広い敷地があれば、開放感、動線のラクさ、空間の自由さなどの優位性がある。とはいえ、大富豪でない限り、郊外を選ばざるをえず、交通の便がネックになるのも事実。そんななか、千葉県千葉市という「遠すぎない」立地は絶妙だ。今後の発展が楽しみだ。
●取材協力
株式会社拓匠開発
新築一戸建てサイト
この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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