/
 電線を地下に埋める無電柱化計画。何となくは聞いたことがあるが、実際どこまで進んでいるのか、なんのためにやっているのか。詳しく知る人は少ないだろう。昨今、急に話題になったように感じるかもしれないが、実は1986年からこの問題は議論されてきた。今回は、NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク・理事兼事務局長の井上利一さんに話を聞いた。
全国で1%未満……まだまだ遠い無電柱化の道のり
現・東京都知事の小池百合子氏が衆議院議員時代から力を入れていたということもあってか、昨年12月9日には、参議院本会議(全会一致)にて、「無電柱化推進法案」が成立した。1986年から始まっているにもかかわらず、ここまで時間がかかったことにも驚きだが、現在、どこまで無電柱化が完了しているのだろう?
「1986年から『電線類地中化推進計画』というものが5年計画で進められていて、現在7期目。これまで、全国で約9000km分の無電柱化が完了しています」(井上さん、以下同)
9000kmと聞くと、かなり進んでいるように感じるが、日本の道路の総延長は約120万km。パーセンテージでいうと、1%にも満たない。都道府県別で見てみると、最も進んでいるのは東京都で、その後に、兵庫県、岐阜県、大阪府と続く。

【画像1】都道府県別の無電柱化整備状況。断トツの東京都でも、5%を下回る(出典/国土交通省)
上記のグラフの結果を見ても分かるように、特に東京都は力を入れていて、八王子市や江東区の一部(東陽町や永代通り周辺など)は、すでに無電柱化が完了しているそう。とはいえ、それでも5%以下。無電柱化の道のりはまだ遠いというのが現状のようだ。
無電柱化の課題はコスト削減と新規電柱の建設への歯止め開始から30年近く経過しているのに、なかなか無電柱化が進まないのはなぜ? 井上さんは、「一番は高コストであること」と、話す。
「現状、無電柱化工事の基準が厳しすぎるという問題があります。地中深くに埋めなさい、パイプは決められたものを使いなさいなど、全部言うとおりにしていたらコストの削減はできません」
また、高コストであることが無電柱化の妨げになるだけでなく、むしろ電柱の数を増やしているのだとか。「1987年~2013年までの25年間で、電柱は545万本も増えています」と井上さん。電柱の機能を地中に埋めるだけなのに、本数が増えるなんておかしな話だ。その要因を井上さんは、以下のように説明する。
「無電柱化には、国や行政が行う『公共工事』としての無電柱化と、民間企業が住宅開発時に行う無電柱化、大きく分けて2つあります。特に後者が問題で、民間企業が新しい道路や開発地をつくる際、地中化にかかるコストは、デベロッパーが負担しなければいけません。そのため、通常どおり、地上に電柱を建設せざるを得ないのです」
また、新規に電柱を建設することへの規制がなかったことも、電柱増加の一因。最近では、年間で7万~10万本の電柱が新たに建設されているとのことだ。
災害による倒壊防止など……無電柱化の一番のメリットは「防災」ここまで、無電柱化の現状は何となく見えてきたが、そもそも無電柱化とは何のためにやるのだろう? 井上さんいわく、「無電柱化のメリットは、景観保護や防犯効果、交通安全、バリアフリー、資産価値向上などさまざまあります」とのこと。数あるメリットのなかでも、特に井上さんがアピールしたいのは、「防災」だという。
「災害のニュースを見てもあまり意識しないかもしれませんが、電柱の倒壊件数やそれにともなう被害は甚大で、東日本大震災では、約2万8000本もの電柱が倒壊。熊本地震でも、約4000本が傾き、244本が倒壊しました。例えば向こう側で火事があっても電柱によって道路がふさがれては、緊急車両が通れないし、支援物資も運べない。怖くて人も通れない。そう考えると、電柱はとても危険な面ももっているのです」

【画像2】おもな自然災害における、電柱の倒壊状況。大規模な地震だけでなく、竜巻や台風ですら倒壊の恐れがある(出典/国土交通省)
ひと口にいえば、電線を地中化することで、電柱の倒壊リスクを軽減できるということ。実際、災害時の被害状況を比較した結果、無電柱化された箇所は地上にある電柱の80分の1の被災率だったというデータもあるそうだ。

【画像3】阪神淡路大震災発生時の様子。倒壊した電柱が通行人の進路をふさいでいる(画像提供/NPO法人 電線のない街づくり支援ネットワーク)
「災害時にガスが爆発したり、水道があふれだしたりというのはあまり見かけませんよね。昨年の博多駅前の道路陥没などであれば別ですが、基本的には、地下のほうが安全なのです」
しかし、万が一震災などによって地中の電線がダメージを受けた場合、その復旧にかかるコストは、地上電柱より高くなるという。この点は、デメリットと言えるだろう。
地震の多い日本。無電柱化は未来の震災を考えると、いち早く進んでほしいものではあるが、リスク回避にはコストが付きまとう。また、維持費用も考えると……。簡単には進められない事情があるようだ。
●参考この記事のライター
SUUMO
176
『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
ライフスタイルの人気ランキング
新着
公式アカウント