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今回、紹介する相談者・島田由奈さん(仮名、42歳、専業主婦)は結婚17年目。現在16歳の息子さんと必死に育ててきたのですが、夫の存在は息子さんに必要だけれど、妻である自分には必要ないと言い切ります。夫(54歳)は12歳も年上なので、二人の性格、価値観、考え方には大きな「ズレ」が生じていました。例えば、由奈さんがワンオペで家事、育児に奔走するのは当たり前。夫は感謝の気持ちを微塵も持っていませんでした。
それ以外にも「家のなかで煙草を吸わない」という約束を平気で破ったりするので、由奈さんは夫に対して完全に愛想を尽かしていました。それでも今まで離婚を切り出さなかったのは、夫が一部上場企業の会社員で安定した収入があるからです。
しかし、今年に入って勤務先から役職定年を言い渡され、年収が900万円から500万円にダウン。これでは生活が成り立たないのですが、夫は相変わらず、知らぬ存ぜぬという態度。由奈さんはやむを得ず、実家から毎月3万円の援助を取り付けたのです。けれども17年間の心労がたたり、6階の自宅マンションから飛び降りてしまいたいという衝動にかられたそうなのです。最後の砦だった「経済力」すら失った夫との夫婦関係をどうすべきか。あまりにも深い悩みを抱えて、筆者の事務所を訪れたのです
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筆者が真っ先に気になったのは夫に離婚する気があるのかどうか。そこで「離婚したいってカマをかけてみるのはいかがですか?」と提案したのですが、由奈さんは「息子のために『今』離婚する気はないんです」と拒否。筆者は「旦那さんは世間体が第一のタイプですよね。仮に由奈さんへの愛情がなくても、母親に離婚したなんて言えないから、きっと『離婚したくない』と言うでしょう」と続けました。
由奈さんは「主人が何を言い出すか分からなくて怖いですが…」とためらいつつ、現状のままではいけないと思い、夫に対して、こう切り出したのです。「今まで離婚したいって思ったのは一度や二度じゃありません。このままじゃ死んでしまうそうなんです!」と。
そうすると夫は案の定、渋い顔をしたそうです。「急に何を言い出すんだ。今まで一緒にやってきたじゃないか⁉ 今さら離婚するなんて面倒臭すぎるだろう」と後ろ向きな態度をとったのです。離婚しないのはあくまで自分のため。由奈さんのためではないのは残念ですが、これで夫の気持ちが分かったので、次の行動に移ることができます。
夫が離婚したくないこと、母親を悲しませたくないことは交渉材料として使うことができるでしょう。離婚しないのなら、由奈さんは何を望んでいるのでしょうか? 由奈さんは「私の血圧が上がるような発言をしないで欲しい、行動をとらないで欲しい、特に息子の前で喧嘩になるようなことをしないで欲しいと思っています」と答えます。
それを踏まえたうえで筆者は「旦那さんが離婚したくないのなら、そのことを逆手にとってみては?例えば、今度、喧嘩をふっかけてきたら離婚する…という感じで」と説明しました。今すぐ離婚するのではなく、約束を破った場合に離婚する…つまり、違反のペナルティとして設定するのです。そうすれば離婚したくない夫は約束を守るしかないでしょう。
しかし、前回、今回と離婚せずに済んだので、夫は今回も離婚させられると思わないでしょう。「次回も大丈夫」と侮るに決まっています。「離婚」を具体的に想像させるにはどうしたら良いでしょうか?「お金の条件」を設定するのが効果的です。
「でも、いくらにしたら」と不安そうな顔をする由奈さんに対して、筆者は「金額は自由に決めてください」と伝えました。なぜなら、どんな金額でも夫は承諾するしかないからです。もし「金額が高すぎる」と文句を言った場合、「約束を守るつもりはないのね。それなら離婚よ」と切り返せば、夫は黙るしかないでしょう。
まず慰謝料ですが、結婚生活のなかで精神的苦痛を与えた場合、苦痛の対価をお金で弁償するのが慰謝料です。由奈さんは17年もの長きにわたり、夫のせいで苦しみ続けてきたのだから、慰謝料を請求する権利がありますが、前述の通り、夫は3年前、父親の遺産を相続しました。相続財産の金額は不明ですが、由奈さんいわく、2,000万円を超えることはなさそうです。
筆者は「旦那さんは父親が残してくれた遺産を奪われたくないでしょう」とアドバイスしたところ、由奈さんは「それなら2,000万で!」と言うので、慰謝料を2,000万円に設定しました。
次に財産分与ですが、大事なのは元夫がいくらお金を持っているのかです。今まで夫は毎月12万円の生活費を由奈さんに渡してきましたが、それ以外はブラックボックス。生活費以外は夫が管理してきたので、由奈さんは「いくら貯め込んでいるのか分かりません」と言います。筆者は「それで結構です。それなら財産分与は金額にかかわらず、由奈さんの総取りとしましょう」と助言しました。そうすると由奈さんは「それなら主人の財産はすべて私がもらうって意味ですよね」と承諾しました。
最後に解決金です。これは慰謝料や財産分与に当てはまらないお金のことです。今回の場合、生活費の不足分として由奈さんの実家から毎月3万円を援助してもらっています。夫は「借りた」ではなく「タダでもらった」と思っているでしょう。何があろうと毎月3万円を後でまとめて返したくないはずです。由奈さんは「離婚しない条件ではなく、本当に返して欲しんですが…」と躊躇しますが、筆者が「離婚しないためです」と口添えすると、由奈さんは「分かりました」と同意しました。
このように夫は由奈さんに喧嘩を吹っ掛けた場合、離婚させられるうえに2,000万円の慰謝料を支払い、それでも残った貯金を支払い、そして妻の実家からの援助分も返さなければなりません。それが嫌なら静かにしているしかありません。
由奈さんは離婚しない場合の三つの条件を必死に暗記し、帰宅したばかりの夫に対してこう切り出したそうです。「この前は離婚しないって言いましたよね。でも、このままじゃ、本当に死んでしまいます。それなら守って欲しいことがあります」と言い、三つの条件を説明したそうです。しかし、夫は「ふざけるな!もし守れなかったら大変なことになるだろ?」一笑に付したのです。
そこで由奈さんは「それはそうだけど…必ず守って欲しいから」と付け加えたそうです。しかし、夫は「守らないなんて言っていない。ちゃんと守るって言っているだろ? そんなに信用されていないのか?!慰謝料、財産没収、それに『借りた金を返せ』って…普通じゃないだろ!」と。
とはいえ本当に約束を守る気があるのなら、離婚したくないのなら、どんな条件を付けられても構わないはずです。
これらの条件は離婚した場合のみ効力が発生します。逆にいえば離婚しない限り、効力は発生せず、保留中のままです。夫が再度、約束を破った場合は離婚するという意味です。離婚届を提出するという意味です。夫が心から反省し、心を入れ替え、約束を守り続ければ、三つの条件は保留中のままです。そのため、由奈さんは「もしOKしてくれないなら、約束を守るつもりがないのだ、と思うしかありません。そうすると離婚するしかありませんね」と続けたのです。
しかし、夫にはまだ反撃の余地があったようで…「いろいろ御託を並べているけど、お前、本当は離婚したいんじゃないか?実際には結婚生活を続けていくつもりがあるのか?」と投げかけてきたのですが、これは由奈さんにとっても痛い質問です。なぜなら、本当は今すぐにでも離婚したいのだから。
そこで由奈さんは「私は康太のことを第一に考えています。今すぐ離婚しないのは康太にとってあなたが必要だからです。分かりました。康太が成人するまで仮面夫婦を続けましょう。成人したら離婚しても結構です。そのころにはお義母さん(現在76歳)も健在か分からないし」と返したそうです。
このように三つの条件は息子さんが成人するまで。あくまで期間限定だということを付け加えたのです。実際のところ、夫も母親に気兼ねしなくていいのなら、由奈さんを引き留めるつもりはなく、さっさと離婚に応じているでしょう。息子さんが成人するまであと4年。我慢するのは4年間でいいと安心したのか、ついに夫はこの条件に承諾したのです。
ここまでは由奈さんが17年間の夫婦関係で精神的に追い詰められたけれど、離婚を思いとどまり、結婚生活を続けるにあたり、何をすべきかについて紹介してきました。「離婚したい」と思って即、離婚できるのなら、統計上の離婚件数はもっと増えるでしょう。
しかし、実際には子どもが小さいから、経済的に不安だから、気持ちの整理ができないからなど、すぐに離婚できない事情を抱えていることが多いです。嫌々でも婚姻関係を継続する場合、「タダで」終わらせるのは危険です。何もしなければ、ますます夫との仲は険悪化し、心の傷は深まり、最悪の場合、由奈さんのように命の危険にさらされる恐れもあるからです。
夫への愛情がゼロになった場合の同様です。気持ちは冷めてしまっていたとしても籍だけ入れ続けるのなら、何をしたら良いのか? 由奈さんが辿った経緯を参考にしつつ、をご自身のケースに当てはめて考えてみてください。
この記事のライター
OTONA SALONE|オトナサローネ
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