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日常のコミュニケーションや暮らしに困難を感じる『発達障害』が一般的に知られるようになり、「子どもの発達が遅れている気がする」と悩む保護者も多くいます。今回は『発達障害の子が羽ばたくチカラ 気になる子どもの育ちかた』(KADOKAWA)の著者・監修者であり、医学博士の川﨑聡大先生にお話をうかがいました。
子育てにおける「困ったな」と発達障害の関係や、「よい専門家の見つけ方」についてお話を聞いた前編に続き、後編では療育の基本や、療育にできること・できないことについてうかがいます。▶前編はこちら
――「療育」とは何か、教えてください。
川﨑先生(以下、川﨑):療育とは、「本人や周りの人にとって、今日より明日が少し生活しやすくなるための支援」です。言い換えれば、その子のなりたい自分になるためにできることを増やしていくこと、ともいえるでしょう。療育は、いわゆる定型発達に近づけるためにあるものではありません。
――保護者としては「療育=発達障害を治せる、いわゆる普通の子になれる」と思いがちですが、そうではないんですね。
川﨑:「治りますか?」や「特性はなくなりますか?」と聞かれることは多くあります。こうした問いに、医療関係者をはじめとした専門家が「はい」と断言することはできません。そもそも何をもって「治る」とするか明確ではないからです。しかし、今後その子がどうなるのかという疑問にはきちんと答えなければと感じています。
――保護者ができる、「治りますか?」の代わりになるような尋ね方はあるのでしょうか?
川﨑:就学前なのであれば「小学校に入学するころ、この子はどのような様子になっていると予測しますか?」と尋ねてみてください。「できないこと」「病気なのかどうか」というところから、「どういった状態になれば、この子がより幸せになれるのか」と視点を変えてみるのです。
――なるほど。視点を変えることが大切なのですね。
川﨑:先の質問に対する専門家の回答に対して、さらに「家庭では何をしたらいいですか?」と質問してみてください。すると、その専門家の考えを具体的に聞けるはずです。これは、自分たち親子をサポートしてくれる専門家かどうか、見極めるポイントにもなると思いますよ。
――子どもの発達が気になる保護者にとっては、それでも「定型発達に近づけたい」との思いもあると思います。「療育にできること」について教えてください。
川﨑:前提として「あの子ができているから、うちの子もできていないといけない」ということはありません。一人ひとり、目指す姿はバラバラでいいんです。ですから、療育を通してできることは、その子の状況や、何より目指す姿によって変わります。
たとえば、実年齢は5歳で、全般的な発達の遅れがある子がいるとします。療育では、この子の理解の段階をおさえ、本人と保護者がお互いに「わかった」「伝わった」と実感の持てるやり取りの段階と方法を具体的に提案します。また、特性に応じたコミュニケーションの工夫を“場面ごとに”提案し、サポートします。これによって親子のすれ違いが減り、お互いに楽しくコミュニケーションできるようになるでしょう。
――その子の発達の程度や置かれている状況がバラバラだから、目指す姿もバラバラでいいんですね。
川﨑:そうです。ただ、発達障害だけでなく、すべての子どもたちに共通して言える大切なスキルの一つが「一つ先の見通しを持つ」スキル。「次にどんな活動や行動があるか?」と予測ができる力や、それができるようになる環境をつくることです。これができるようになると、この先に何があるかわくわくしながら出来事に参加できるようになります。たとえ嫌なことでも、先に予告されているとちょっと我慢ができるということですね。
――見通しを持つスキルを身につけるにはどうしたらよいのでしょう?
川﨑:一つは、自分の欲求(やりたいこと、ほしいもの、手伝ってほしいことなど)を楽に伝えられる手段を持つこと。これは会話に限らず、紙に書いて伝える方法や、指差しなども含みます。もう一つは、自分も周りも困らないかたちで「いやだ」と拒否できるコミュニケーション手段を身に着けておくこと。子どもの理解力の段階に応じて工夫しながら、これらを身に着けることは、私が療育の現場にいたころから重要だと感じています。
――自分の欲求を適切に伝えるスキル、周りが困らない形で拒否できるスキルの双方が大切なんですね。
川﨑:さらに一つ付け加えるならば、本人が「やりたい」と思う経験をどんどん積むことも「見通しを持つスキル」を培うことにつながります。子どもには、自分が動けば周りの環境は変わるのだという経験をたくさん積んでほしいですね。
――子どもの発達が気になる保護者に向けて、一言お願いします。
川﨑:発達障害の診断や支援、子どもとのよい関わりを通して、親子が今よりも楽になれることはもちろん重要です。加えて、「1年後はどうなるかな?」「5年後、どうなっていたらこの子が楽かな」ということを、親だけでなく子どもの周囲にいる人全員で考えられるようになるといいですね。多くの人が子どもの育ちを見守る世の中であってほしいと願っています。
親の責任は途方もないものです。ですが、子どもの成長は親も変えるんです。だから、一緒に育っていきましょう。
(取材・文:マイナビ子育て編集部)
発達障害や親子関係、教育、地域支援など、子どもに関わるさまざまな分野で活躍するスペシャリストが集結。川﨑先生監修・著の『発達障害の子が羽ばたくチカラ 気になる子どもの育ちかた』(KADOKAWA)では、子どもたちの育ちを支えるために、家庭・学校・地域社会がどのように環境をととのえていけばよいかを、わかりやすく解説しています。
この記事のライター
マイナビウーマン子育て
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