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SNSだけでは届かないーー信頼できる情報を女性たちへ届けたい。産婦人科医・宋美玄さんが立ち上げた医師監修のヘルスケアメディア「crumii」、その背景と想いを聞きました。

(※画像はイメージです)
――産婦人科医である宋先生が、「crumii」というwebメディアを立ち上げたのはどうしてですか?
宋美玄さん(以下、宋)今はSNSを通じて情報を得る人がとても多いですが、SNSには正確な情報がなかなかなくて、いろんな方が情報迷子になっている現状があります。正確な情報を発信してもポストはすぐに流れて過去のものになってしまいますし、何度も同じテーマが俎上にのって議論になっています。私自身、これまで15年ほどSNSをやってきた経験から、女性の体をめぐる正しい医療情報をわかりやすいかたちで届ける、ストック型のメディアを作りたいと思ったのがきっかけでした。
――「情報迷子」の多さを実感した出来事があったのですね。
宋たとえば、「妊娠中に生野菜を食べたらいけない」という情報を目にして、徹底して生野菜を避ける妊婦さんがいます。一方で、妊娠中の旅行、いわゆる“マタ旅”はリスクが大きいので避けてほしいのですが、インフルエンサーが海外のビーチで素敵なマタニティフォトを撮ってSNSにアップしたり、そうした投稿に影響されてか妊娠中でもガンガン海外旅行に行く妊婦さんも……。その都度、私は医学的に正しい情報の発信を試みてきましたが、自分の読みたい傾向の記事や投稿だけがタイムラインに流れてきやすいというSNSの特性上、すべてのタイムラインに正確な情報を届けることは難しいことです。そこで、幅広い年代の女性たちに「なにかあったらあそこに調べにいこう」と思ってもらえるような、医学的に正しくアップデートされた情報にたどり着けるメディアを作りたいと思ったんです。
――女性のヘルスケアについて医学的に正しい情報を得たいと思ったとき、すでに体調不安があったりメンタル面でも不安定になっていたりすることも多いので、ユーザーにとってできるだけ平易な言葉で書かれたわかりやすい記事があるとうれしいですね。ただ、実際に婦人科にかかろうとしても、どこのクリニックを選べばいいのか迷いますし、ややハードルが高い現実もあります。
宋そうなんです。「産婦人科医は当たりハズレが多い」とよく言われるのですが、実際に患者さんの話を聞くと、医療者からありえないくらいひどいことを言われた経験を持つ女性は少なくありません。治療の方法として様々なチョイスがあるのに選択肢を提示されなかったり、「さっさと子どもを産まないと病気になる」などと暴言を吐かれたり、「40歳になったらもうピルは飲めないよ」と一方的に選択肢を奪われたり。本当はもっといろいろなケアの選択肢があるのに、それを明示せず、情報のアップデートもしていない医師も残念ながらいるんです。そこで今後、より充実させていきたいコンテンツのひとつが「crumii賛同医師」です。「crumii」の記事監修に協力してくれているドクターたちで、「女性たちが安心してかかれるドクターのリスト一覧」として便利に使っていただきたい。少しでも多くの患者さんが理不尽な目に遭わず適切な医療にアクセスできるように、女性と婦人科医療を繋いでいきたいと思っています。

curumii
――「crumii」ではどのような記事が人気なのですか。
宋やはりSNS経由で記事にアクセスしてくださる方が多くて、実体験ベースの記事が特に多く読まれています。手前味噌ですが、私が子宮内避妊システム「ミレーナ」(※1)を抜去したことについて綴ったコラム記事も大きな反響がありました。
――「ミレーナを抜いたら娘の反抗期がマシになった話」ですね。
宋はい。私は第二子の息子を産んだあと、40代でミレーナを装着しました。実際に9年以上のあいだ子宮の中にミレーナを入れて過ごしてみて言えるのは、超快適だったということ。妊娠を控える計画をしている人には超オススメですし、生理の煩わしさから開放され、生理用ナプキンを買うこともなくなりました。ただ、49歳になって「周閉経期がどんなものか経験してもいいかも」と思ったのをきっかけにミレーナを抜去して、今は女性の更年期とはどういうものかを身をもって味わっているところです。
――9年以上装着していたミレーナを抜去されたあとの体調はいかがですか?
宋抜去直後は懐かしいPMSと生理痛が来ましたが、その後は急速に閉経に向かっており、更年期障害の影響もあって、ホルモン補充(※2)をしている最中です。正直、あまりにも急に女性ホルモンの数値が下がってしまったので、喪失感を感じましたね。私の母親は51歳で子宮を摘出するまで生理がありましたし、自分がまさか40代のうちに閉経してしまうとは思っていませんでした。
――更年期障害の症状は女性ひとりひとり全然異なるとよく聞きますが、宋先生が「これは更年期の症状かも」と感じたのはどんなことでしたか?
宋高い場所にあるものを取ろうと腕を伸ばしたときや、床を拭き掃除していたときに、腕に「ピキーッ!!」と痛みが走ったんです。これはおかしい、腕が痛くてなんだかめちゃくちゃしんどいぞと。更年期症状として一番典型的なのはホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)ですが、私の場合はホットフラッシュはありませんでした。クリニックの更年期外来を訪れる女性では、手足の痛み、眠れない、落ち込む、などの症状を訴える方が多いですね。
――心身の悩みを抱える女性が快適にすごすためのセルフケアとして、第一歩はどのようなことでしょうか。
宋まずは自分の体を知ることです。その不調の原因は病気なのか、更年期障害なのか、加齢によるものなのか……わからないからこそ病院に行き、自分の体に何が起こっているのかを知ることは非常に大事だと思います。そのうえで、不調を軽減するために多くの選択肢があることも知ってもらい、チョイスしてほしいです。更年期に関して意識してほしいのは、治療をしても更年期以前の体には戻らないということです。変化が急なので、みなさん更年期が終わったら元の体に戻るような気持ちでいて「え! ちょっと前のあの体には戻らないんですか!?」と驚かれるんです。でも、30代と40代の体力が違うように、40代と50代の体力も違うのは当たり前。50代を迎えたら、普通に50代の体なんです。
――たしかに……!
宋でもまあ、いまの50代ってすごく若いですけどね。人生はまだ折り返し地点ですし、「今日が一番若い」ことには変わりないので、楽しんでいきましょう!

(※画像はイメージです)
※1ミレーナ:正式名称は「子宮内黄体ホルモン放出システム」。子宮内に装着するT字型の避妊具。5年間、黄体ホルモンが少量ずつ継続的に子宮内に放出し、子宮内膜に作用することで避妊や生理痛の症状緩和になる。約半数は排卵も止まるため、経血量が減ることも。5年経たずに取り外すことも可能
※2ホルモン補充:ホルモン補充療法のこと。更年期により乱高下し不足したエストロゲンを補うことで、更年期障害を改善する治療法。内服薬、経費薬がある

(※画像はイメージです)
――宋先生ご自身はホルモン補充療法によって更年期障害の症状が軽減されていますか。
宋そうですね、それでも体がつらいときはあるのですが、何も対策をしないよりはずっと良いと思います。実際、ホルモンバランスを整えてあげることで劇的に改善する患者さんも多いです。私のクリニックでは漢方も処方しています。また、日常の生活習慣でいえば、浴槽のお湯に浸かって血行を良くすることと、バランスの良い食事。でも、それだけでは十分ではないし、薬だけでも十分ではありません。ホルモン補充など医療のサポートも受けつつ、自律神経がちゃんと働くように睡眠のリズムを整えたり、食事をきちんと食べたりといった生活習慣を続けることが大切なんです。
――更年期障害の症状として、体の不調のみならずメンタルも不安定になりやすいという話はよく聞きます。
宋そうですねえ。たとえばPMSは月の半分が“そういう時期”ですが、更年期障害の場合は10年くらい続くこともあります。家族など身近な人には「これは更年期の症状で……」ということを話しておいたほうがいいですよね。
――更年期の不調を抱えてからご家族とのかかわりに変化がありましたか。
宋夫は更年期の症状についてすごく理解がありますが、一方で私がなにか不満を言うと「更年期障害のせいでイライラしている」と片付けられてしまうことがあるので、いやいやそうじゃないんだよ!と。なにかにつけて更年期障害のせいにされるのは不服です(笑)。そして我が家は私の更年期障害と娘の反抗期が重なったので、地獄ですよ(笑)。「ママつらいわあ」と体調不良を漏らしても、なんのいたわりもないです(苦笑)。

(※画像はイメージです)
――「crumii」には10代の生理(月経)や性教育に関するコラムもあります。クリニックには生理の相談で来院する10代の患者さんもいらっしゃいますか?
宋たくさんいらっしゃいますし、私の娘も11歳で初潮がきてから生理をコントロールしていて、14歳の今はもうまったく生理に悩んでいないんですよ。
――いいですね。ママ友のお子さんの話なのですが、中学生になって初めて重い生理痛を経験して精神的にも不安定になり「言い知れない不安を感じる」と泣き出してしまった、と。ママ友は「何か月かそういう状態が続いたら婦人科を受診させたほうがいいのかな」と悩んでいました。
宋それはかわいそうですね。何か月か続いたらなどといわず、その時点で受診を勧めます。生理のコントロールにはいろいろな選択肢がありますから、ぜひお子さんと一緒にクリニックを訪れて、本人に選択してもらうのがいいでしょう。特に治療を選択せず、まずは相談だけでもいいと思います。
――ただ一方で、親子で生理の話や性教育全般の話をしづらいという声を耳にすることもあります。
宋オススメは、「トイレ文庫」を作ることです。いろいろな本にまじって生理や性教育関連の本を置いておく。トイレなら誰の目にも触れずに子どもが「この本の中身はなんだろう」と見ることができるじゃないですか。そういう場所に体や性に関する本を並べておくと、子どもって結構見ているんですよね。
――トイレ文庫、いいですね!
宋どうしても性についてタブー視してしまう親御さんもいるのですが、親の反応を子どもは敏感に感じとります。親は日常から「オープンに相談して大丈夫だよ」という雰囲気を醸し出しておくことが大事だと思います。
(取材・構成=有山千春)
この記事のライター
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