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昨年末、25年ぶりに実施された『性機能障害の全国実態調査に関する報告』では、驚くべき結果が明らかになりました。50歳以上の年齢層では、41.7%もの男性がEDを経験しており、また「セックスレス」―すなわち性交頻度が1カ月に1回未満―が全体の70.4%に及ぶというのです。これにより、日本は少子化にとどまらず、無子化に向かう「レス社会」に突入していることが示唆されています。
静岡市在住の白尾さん(仮名)もまた、この「レス社会」における一人です。44歳の楽器メーカー勤務の彼は、専業主婦である42歳の妻と15歳、11歳の子どもと共に暮らしていますが、長年にわたって人知れず夫婦間の性に悩み、内に秘めた孤独を抱えていたそうです。どのように立ち直ったのか、当時の状況から現在までを赤裸々に語っていたく【後編】です。
◀この記事の【前編】を読む◀レスと自己肯定感の関係とは? 仕事も順調な44歳夫が、家庭のなかで抱える孤独。 __◀◀◀◀◀
【無子社会を考える#21】後編
インタビューを通じて感じたのは、セックスレスが単なる夫婦間の問題を超えて、白尾さん自身の自己肯定感やアイデンティティにも影響を与えているということです。SNSで映し出される“理想の夫婦像”が、他人と自分を比較し、自己評価を下げてしまう一因になっていることは明らかでした。
白尾さんのように、家族のために努力しているにもかかわらず「理想の夫婦像」との比較によって心が削られていく男性たちは少なくありません。SNS上にあふれる幸せな瞬間の投稿が、彼らにとっては自分の足りない部分を際立たせ、自己評価をさらに低下させる要因となっているのです。
「SNSで見るあの笑顔は本当のものなのか、ファンタジーなのかを考えるときもあります。でも、自分のメンタルが落ちていると、それでも本当だったら?という不安が残ってしまうんです。もし自分が努力不足だとしたら……そんな気持ちが頭から離れなくて」
白尾さんが語るこの「不安」は、単なる疑問や妬みとは異なり、彼の心に深く根を張り、日々の自己評価に影響を与え続けています。彼にとって「足りない」という感覚が次第に日常の一部となり、家族に対しても「何かが欠けている」と感じさせる要因になっているのかもしれません。
そんな白尾さんですが、最近、SNSや周囲との比較から少し距離を置くことを心がけるようになりました。釣りを通して得た「自分だけの時間」が、彼の心に小さな変化をもたらしているといいます。
「今まで家にいると、常にいい夫、いい父でいなければというプレッシャーに押しつぶされそうになっていたんです。でも、自分自身が満たされていなければ、その役割を全うすることもできないと気づきました」
自分を満たすことで家族と向き合える余裕が生まれる。このシンプルな気づきが、白尾さんにとっては大きな一歩でした。彼は「まず自分が幸せでいること」を意識するようになり、理想に縛られすぎず「自分たちらしい夫婦関係」を模索することが大切だと感じ始めているそうです。
「妻との距離感がすぐに縮まるわけではありません。でも、無理に何かを変えようとするのではなく、お互いに自然体でいられるような関係を作っていければと思っています」
白尾さんの語る「自然体でいる」という言葉には、彼がようやく見出した安らぎが込められているように感じます。彼にとって、かつての理想的な夫婦像を追いかけるのではなく、今ある自分たちの関係を認め、受け入れることこそが最も大切なことだと気づき始めているのかもしれません。
「自分たちには自分たちなりのペースがあっていいんだと思うようになりました。他の人たちと比べることではなく、家族としての時間を大切にすることが、きっと僕たちの幸せにつながるのだと。最近、何気ない会話が夫婦間で戻ってきていると感じます」
SNSで他人の「幸せな姿」に影響されることなく、自分たちの家庭を築き上げていくことの重要性に気づいたとき、比較の呪縛から解き放たれ、自分自身を受け入れる道が見えてきたのです。白尾さんは少しずつですが、SNSとの上手な付き合い方や、SNSが生み出す「理想」から自由になる努力を続けているといいます。
インタビューを通じて、白尾さんは自分と向き合い、家族との距離感を見つめ直すことで、徐々に「完璧さ」に囚われることなく、幸せを見出し始めているように感じました。夫婦にまつわる性の課題は、今でも解決には至っていないものの、それに対して悲観的になるのではなく、むしろ現実を受け入れ、その中でできることを探す日々を白尾さんは送っているのです。そして、その姿は、レス問題に悩む他の多くの男性たちにとっても、新たな視点と希望をもたらすものかもしれません。
白尾さんのように、夫婦間で課題を抱えつつも、そこから新しい幸せの形を探し続けること。
それこそが、心の充足感を取り戻す鍵となるなのかもしれません。
この記事のライター
OTONA SALONE|オトナサローネ
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