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行政書士、ファイナンシャルプランナーの筆者は、20年間で2万件以上の離婚相談を受け持っています。「離婚のお金」はタブー中のタブーです。「お子さんの養育費って毎月いくら?」「ご主人の貯金を分けてもらったんですよね?」「女を作って出て行ったって聞いたわ。慰謝料も結構、いただいたんでしょ?」なんて話題は厳禁! 世の中、離婚にともなうお金の話はNGワードを化しているのです。
離婚した先輩は教えてくれないし、そもそも聞けない。だから、いざ自分が離婚するとき、何を参考にしていいか分からず、途方に暮れるのです。
今回の相談者・小磯麗奈(42歳)は結婚12年目。夫婦の間には9歳のかわいい娘さんがおり、一見すると結婚生活は順調のように思われました。しかし、麗奈さんは夫の怠慢な性格に悩み続けていました。麗奈さんは内科クリニックで働く看護師で平日休み。夫は製薬会社で働くMRで土日休み。それなのに夫は家事を全く手伝わないだけでなく、あれこれ難癖をつけてばかり。そのたびに麗奈さんはキレそうになるのです。このような一触即発の連続でも大事にならなかったのは毎回、麗奈さんがグッと堪えていたからです。しかし、麗奈さんの我慢の限界を超える出来事がついに起こってしまったのです。何があったのでしょうか?
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【行政書士がみた、夫婦問題と危機管理 #9】
娘さんが通う小学校の担任教諭から電話がかかってきたのです。「個人面談をキャンセルしたいということですが、本当によろしいのでしょうか?どの時間帯も予定が合わないのですか?」と。麗奈さんは何のことなのか、まったく身に覚えがなかったそうです。教諭いわく、夫から「都合がつかないからキャンセルしたい」と連絡があったそうなのです。娘さんに確認すると、個人面談について書かれたプリントをたまたま夫に渡してしまったことが明らかに。
そのことが面談当日の1週間前に分かったのは不幸中の幸いでした。麗奈さんは電話口の教諭に「主人が勝手にやったことなんです。その日は私がちゃんと出席しますから」と訂正し、事なきを得ました。
そして麗奈さんは帰宅した夫を「どういうこと!」と問い詰めたのですが、「面倒臭いから」の一点張り。麗奈さんは「あなたは関係ないじゃない!私が行くんだから」と言い返しても、夫は「お前じゃない。担任の方だよ。小学校の個人面談なんてほとんど意味がないし、面倒臭いって思っているじゃないかな」と持論を展開したのです。
麗奈さんは呆れてものも言えないという感じで「もう、いいわ!話にならない」と話を打ち切ったのです。
「私は両親から『大人は子どものお手本になりなさい』って教えられました。でも主人は違ったみたいです。反面教師にも程がありますよ!」と言い、あきらめの境地に至ったようです。夫は娘さんにとって「いない方がいい存在」だと悟ったのだそう。
そしてついに麗奈さんの堪忍袋の緒が切れ、「離婚」を決断したのです。
「私のことはどうなってもいいの。でも里奈(娘の名前)のことってなると許せないわ!あなたを見て育ったら、とんでもない大人になっちゃう。そうならないために、あなたと引き離すしかないの!」と切り出したのだそう。しかし、夫は「何を言っているんだ?!」と、真剣に向き合おうとしませんでした。「馬鹿か、お前は!わざわざ子ども部屋のある割高な間取りのマンションを買ったんだぞ?!そもそも俺の飯は誰が作るんだ。お前らの部屋まで掃除しろって言うのか。洗濯機なんて一度も回したことがないんだぞ!」とまくしたてるばかり。
このように夫は自分のことしか考えておらず、彼の口から娘さんの名前は一度も出ませんでした。麗奈さんは「終わった」と悟ったそうです。翌週には娘さんを連れて自宅を出て行き、実家に戻ったのです。実家が同じ学区内にあったのはラッキーでした。
麗奈さんが筆者の事務所へ相談しに来たのは、夫に離婚を拒まれ、どうしようもないタイミングでした。筆者は「離婚のことは置いておいて…まず旦那さんにいくら請求できるのかを計算してみませんか?」と提案しました。
夫婦にとって最も大きな財産はマンションです。結婚3年目に5,600万円で購入したのですが、夫が300万円、麗奈さんが200万円、麗奈さんの父親が500万円の頭金を入れたので、残りの4,600万円は夫が住宅ローンを組んだそう。所有権の割合は夫が88%、麗奈さんが12%。まだ4,000万円近くのローンが残っています。
ところで前編で説明した通り、結婚している間、夫婦で築いた財産は夫婦の共有ですが、(民法762条)ですが、離婚する際は夫と妻で財産を分け合います(民法768条)。これはマンションも同じですが、頭金はどうでしょうか?独身時代に築いた財産、両親から贈与された財産は夫婦の共有ではなく特有です(762条)。そのため、12%の所有権は麗奈さんの財産です。
しかし、今さら夫のいるマンションに戻ろうとは思っておらず、戻ったところで88%の所有権を持っている夫を追い出すのは至難の業です。そこで筆者は「いっそのこと、夫にあげてしまってはどうでしょうか?」と提案。これは麗奈さんが持っている12%の所有権を無償で譲渡するという意味です。もともと麗奈さんが12%の所有権を持っているのは700万円の頭金を入れたからです。もちろん、購入時と比べ、マンションの価値は下がっていますが、「700万に近い金額を渡すので、その代わりに離婚して欲しい」と投げかけるのです。
本来、渡す必要がない特有財産を渡すので麗奈さんにとって大損ですが、夫にとっては得しかありません。もし夫の所有権が100%になれば、今後、誰にも文句を言われずに住み続けることができるし、好きなときに売却できるし、利益のすべてを総取りすることができるのです。
筆者が「旦那さんがいくら持っているのかを知っていますか?」と尋ねると、麗奈さんは「いえ……」と下を向きますが、「分かっているのは」と前置きした上で話を続けます。まずは財形貯金。これは勤務先の会社の福利厚生で、毎月の給料から一部を天引きし、会社の方で預かります。財形の利息は市中の金融機関より高いので、それは社員にとってのメリットです。
まだ給与明細が電子化される前、麗奈さんが夫の明細が印刷されたものを目にしたことがあるそう。麗奈さんは「毎月2万って書かれていました!」と答えます。利息を抜きにしても12年間で288万円になります。
それ以外にも夫がパソコンの画面を開いたまま、トイレに行ったときのこと。画面には投資信託の取引残高報告書が表示されていました。これは3年前のことですが、当時の合計額は478万円。すべてが結婚以降の残高かどうかは分かりませんが、夫婦の共有財産が含まれているのは確かです。
一方、麗奈さんの財産はどうでしょうか?「貯金は200万くらいです。あとは娘の学資(保険)ですが、まだ保険料を払っている最中ですよ」と答えます。
学資を別にしても966万円。按分割合を折半にすると、お互いの取り分は483万円。夫の財産は283万円も減り、麗奈さんの財産は283万円も増える計算です。つまり、財産分与の原則通りに割り振った場合、夫は麗奈さんに財形をすべて渡さなければならないのです。しかも、これは麗奈さんが把握している夫の財産に限られます。夫の年収(800万円)を考えると、これ以外にも財産を持っている可能性が高いです。
麗奈さんは「一番大事なのは娘のことです。私はどうなってもいい」と言いますが、未成年の子どもを抱える夫婦が離婚する場合、どちらが子どもを引き取るのか。親権を決めなければなりません(民法819条)。今回の場合、夫は育児にノータッチなので、麗奈さんが親権を持つ前提で話を進めて良いでしょう。
家庭裁判所が公表している養育費算定表に夫婦の年収、娘さんの年齢を当てはめると養育費は毎月9万円が妥当な金額です。しかし、夫が今まで負担していたのは住宅ローン(毎月12万円)と生活費(毎月3万円)だけです。それ以外はすべて麗奈さんが負担していました。
もし、養育費として毎月9万円を請求した場合。夫が今まで出していた生活費3万円にプラスして、毎月6万円も負担が増えてしまいます。離婚したくないのに離婚させられた挙句、自分のこづかいが減るのなら、そもそも離婚に応じないでしょう。離婚しても懐が痛まないような条件。それは生活費と養育費の額を一致させることです。筆者は「養育費を毎月9万円から3万円に引き下げれば良いのではないでしょうか」と答えました。
ところで財産分与の根拠は内助の功。麗奈さんがワンオペで孤軍奮闘したからこそ、認められた権利です。しかし、麗奈さんは自分を犠牲にしてもいいから、とにかく娘さんを守りたい一心でした。
そのため、夫に対して「私のことはどうなってもいい。マンションの持分もあげるし、財形や投信もいらない。だから、せめて養育費だけは払って!」と訴えかけたのです。それから7ヵ月後。麗奈さんから「離婚、離婚」と言われるのが耐えられなくなったからなのか、妻子が出て行ったけれど離婚していない宙ぶらりんな状態を両親や上司に説明できなくなったからなのか、それともこの有利な条件を取り下げられる前に食いついた方がいいと思ったのかは分かりませんが、夫はとうとう観念しました、「どうしてもって言うならしょうがないな」という捨て台詞を残し、ついに離婚に同意したのです。
麗奈さんは「やっと終わりました。もう、あいつは家畜以下でした」と振り返ります。麗奈さんの父親は畜産の農業法人に勤務していたことがあり、子どもの頃に仕事の様子を見学したことがあるそう。餌を用意し、小屋を掃除し、そして藁の上で寝かせる…そんな上げ膳据え膳状態は夫も家畜も同じですが、基本的に家畜は何も言いません。文句ばかり言う夫はそれ以下だと感じたそうです。
麗奈さんは得られるお金を大幅に手放すことで「離婚」を手に入れたのですが、もちろん、金銭面で妥協せず、無理に離婚せず、別居を続けるという選択肢もあったでしょう。どちらを選ぶのかはその人次第ですが、離婚という区切りを第一に考えるのなら、金銭面で妥協しても仕方がないと割り切るのも一つの考え方です。
<出典>
家庭裁判所の養育費算定表
この記事のライター
OTONA SALONE|オトナサローネ
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